
1件の貸し倒れが運営業者の評判を落とす
借り手企業・運営事業者の メリットとは

ソーシャルレンディングは2014年以降のフィンテックブームに乗っかり大きな成長を遂げました。
従来のビジネスローンや商工ローンは大きな借入申込があった際、銀行から資金調達して保証会社を噛ませて融資を実行してきました。
一方で、ソーシャルレンディングは個人による匿名組合から資金調達する新しい金融サービスですが、借り手側と運営事業者側には、既存の金融サービスに比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。
借り手側企業のメリット

ソーシャルレンディングの貸付条件は年利5~15%程度です。
中でも9~15%/年のレンジが主流で、銀行融資に比べて金利が圧倒的に高いのは言うまでもありません。
ソーシャルレンディングで借入するメリットは複数ありますが、人気を集めた一番の要因はスピーディーな資金調達が可能になることと一括返済方式を選択できるということでしょう。
ソーシャルレンディングはつなぎ融資としての需要が高く、不動産事業・再生エネルギー事業・公共事業・建設業など、受注や認可を受けたら少しでも早く事業を開始させたいという思惑を持った借り手に利用されています。
例えば、人気貸付先のひとつであるメガソーラー(太陽光発電)の場合は、20年に渡って電力会社からの買取価格が保証されています。
買取レートは年々下がっていて、20年後には買取レートが現在の水準より大幅に下がる見込みのため、認可を受けたら1日でも早く稼働させたいという思考はよく理解できます。
手堅いビジネスなので銀行融資も利用できますが、銀行融資は審査や申込手続きに時間を要します。
認可が降り、銀行融資を利用できることが濃厚になった時点でソーシャルレンディングからの借入で事業をスタートさせてしまい銀行融資が実行されたらソーシャルレンディングからの借入を返済するのです。
建設業、公共事業も同様につなぎ融資の需要が高く、工事準備金などの受注が決まった時点で発生するコストをソーシャルレンディングでカバーします。
本来は数十年に渡るビジネスモデルにも関わらず、ソーシャルレンディングの運用期間が1~3年と短期間の案件が中心なのは、つなぎ融資としての需要が多いからです。
もうひとつソーシャルレンディングの大きな特徴が、一括返済方式が主流になっていることです。
一括返済方式には毎月利息だけを払い、満期時に元本と最終月の利息を返済する「元本一括返済」と満期まで一切の返済を行わず利息を含めて満期時にまとめて返済する「満期一括返済」があります。
国内事業では主に元本一括返済が利用されています。ソーシャルレンディングに投資すると毎月分配金を貰えるのは元本一括返済方式になっているからというわけです。
一括返済は銀行や信販会社のビジネスローンでも扱っていますが、通常の元利均等・元金均等方式に比べより審査が厳しくなります。
ソーシャルレンディングは柔軟でスピーディーな審査に加え、一括返済方式に対応しているのが他の融資と異なる特徴です。
土地を取得して整地やビルやマンションを建てて転売する不動産開発事業をはじめ、開発・設備投資・海外の農業支援など借入から売上発生までタイムラグが生じる事業に適しています。
ただし、ソーシャルレンディングでも元本毀損リスクが高いビジネスは借入が難しく、開発すれば高い確率で買い手の付く不動産事業やつなぎ融資として銀行への借り換えで一括返済できるような事業しか融資をしていません。
ソーシャルレンディングは、事業として手堅くて満期時に一括返済できるけど月々の返済負担を少なくしたいビジネスモデルと相性が良いのです。
ソーシャルレンディングは一見客にシビア

ソーシャルレンディングで借入するメリットは審査や対応に柔軟性があることと、銀行融資に比べてスピーディーに借入できることです。
しかし、メリットを最大限活かせるのは事業規模が大きく、ソーシャルレンディング業者から積極的なオファーを受けるような企業のみと言えるでしょう。
ソーシャルレンディングは申込めばどの会社でもすんなりと融資をしてくれるワケではありません。
また、一部の事業者は自社グループや提携会社など特定の相手にしか貸付を行っていません。
maneoやSBIソーシャルレンディングをはじめ、公式サイトで貸付サービスを案内しているところもありますが、新規貸付は相当に慎重な審査を覚悟する必要があります。
大手金融機関や保証会社は一定割合で貸し倒れが発生してもトータルで利益を出せればいいと考えています。
ですがソーシャルレンディングの場合、資金提供者が個人投資家になるため、一部でも貸し倒れが発生すると投資家の間で悪い口コミが広まってしまい、他の優良ファンドでも資金調達しにくくなってしまうリスクがあるのです。
中小企業の場合は、高い金利に設定し複数の融資をローンファンドとして1つの括りにしています。
複数案件をまとめて一つのファンドにして、適正な審査をすることで一部の融資先が貸し倒れを起こったとして、同じローンファンド内の他の利息で損失をカバーして投資家に損をさせないようにリスクヘッジされています。
つまり、ローンファンドの1つに組み込まれる小口案件と、独立したファンドで募集できる大口案件で審査基準が大きく変わっているのです。
当サイトでは、公式サイト内で借り手の募集を行っている主要なソーシャルレンディング会社の貸付条件を一覧にしてまとめました。
気になる業者がどのような方法でファンドを探しているのか知りたい方や、ソーシャルレンディングを借り手側として利用したい経営者・起業家の方はコチラのページをご覧ください。
ソーシャルレンディング会社の儲け

ソーシャルレンディングの運営事業者は、投資をしたい個人と資金調達をしたい企業の仲介役です。
出資者は個人投資家なので、万一貸し倒れが起こった際も損失リスクを被るのは各個人投資家です。
そして、ソーシャルレンディング会社は、借り手から受け取る利息よりも投資家に還元する利回りを2~3%低く設定しています。
この差額である年利2~3%の部分がソーシャルレンディング会社の利益になる仕組みです。
ソーシャルレンディング会社は手数料を取る変わりにフィンテック技術を活用した厳正な審査を行い、貸付後もファンドに対して監視や管理を行い返済遅延リスクを少なくする取り組みを行っています。
取扱い金額が大きく、金融サービスを提供する会社として投資家の窓口になる部署と、貸金業者として借り手側の窓口になる部署や審査を行う部署を持っているため、運営コストは掛かります。
ローン成約額が大きくなるほどソーシャルレンディング会社が確実に利益を出せるビジネスモデルですが、小規模のところは運営コストに圧迫されて赤字になるケースも少なくありません。
大手の2017年3月期決算を見ると、SBIソーシャルレンディングは純利益で1.4億円を出していますが利益過剰金が5.1億円の赤字なので事業としてはまだ投資段階です。
とはいえ、単年で黒字化を達成していて、事業規模を拡大しているので将来的には安定して黒字を出せる運営になるでしょう。
大手はローン成約額を増やしてソーシャルレンディングで利益を出そうと取り組んでいますが、一部ではソーシャルレンディング事業の利益ではなくグループ会社や提携会社の資金調達に貢献できれば良いと考えているケースもあります。
たとえばLCレンディングの場合、大半が親会社のLCホールディングスへの貸付です。親会社は上場企業なので信頼性が高く、LCレンディングから資金調達できれば、親会社がスピーディーで安定した資金調達をできるメリットがあります。
LCホールディングスが順調に成長していけば、LCレンディング単体で赤字を続けていても存続することになるでしょう。
ソーシャルレンディングは運営事業者によって目的や思惑が異なることを覚えておきましょう。運営事業者のコンセプトや目的を理解できると、利用するソーシャルレンディング会社の選定に役立ちます。
参入ハードルは高い

ソーシャルレンディングはフィンテック技術によって、それまで金融業や貸金業とは無縁だった業者でも一定の審査をできるようになったことで普及したサービスです。
金融機関の中では新規参入するハードルが低く、成長著しいカテゴリーなので後発組でも成長できるチャンスは大きいです。
しかし、投資家に対しては金融取引業、借り手側企業に対しては貸金業の2つの顔を持つため、運営するには最低でも第二種金融取引業と貸金業の登録をしないといけません。
それぞれ登録基準が非常に厳しく、金融、貸金業の分野に精通したスタッフを配属するなど、人員を含めた登録審査が行われています。
貸金業の場合は最低でも資本金5,000万円以上が必要で、中小企業が手軽に参入できるものではありません。
ソーシャルレンディングの正規業者として運営している時点で、それなりに信頼できる会社だと判断できます。
一部で第一種金融取引業の登録を受けている会社もありますが、第一種は証券会社に求められる資格でソーシャルレンディングだけを行う場合は第一種の必要性はありません。
金融取引業の第一種・第二種の違いや、第二種金融取引業と貸金業の登録要件をまとめています。